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『俺、鳩川だから!』
・第4話 <カースト>
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「おい、1年モトリーやってねーか?」
軽音楽部の2年生、由紀男は、練習室から漏れ伝わる音に驚いていた。
「そうだな、モトリーだね。」
由紀男のバンドでベースを弾く克也もビックリしながらも感心しつつ、頷いた。
「今日ってあの初心者連中だろ?
なんであいつらが弾けるんだよ?」
ドラムの直人が声を荒げる。
「まさか俺達が乗っ取る前に他の誰かが乗っ取ったか?」
ただでさえ強面の由紀男の顔が、みるみるタコのように赤くなっていく。
川口たちの練習の乗っ取りを画策していた由紀男たちは、想定外の事態に焦りと苛立ちを感じていた。
「とにかく行ってみようぜ!」
「おう!」
3人は誰からともなく足早に練習室へ向かった。
(ガラガラガラ~)
練習室の扉が突然音を立てて派手に開いた。
「おい、お前ら、1年!」
タレントのジミー大東に似たタラコゴリラが、部屋に入ってくるなり川口たちを威嚇する。
(やべー、先輩だ!)
川口の表情から血の気が引き、今にも泣きそうだ。
「先輩?」
ツカサは小声で川口に訊ねると、川口はこれまたバツが悪そうに小さく頷いた。
教室内に後輩しかいないことを確認すると、そのタラコゴリラたち3人は、まるで一回り大きくなったようにふんぞり返って目配せをした。
「今のモトリー?」
「え?はい…。」
ツカサはこのジミータラコゴリラが意外にもモトリーを知っていたことに驚いた。
「それ、君のギター?」
タラコゴリラ…由紀男は違うと知っていてツカサに訊ねた。
「いや、違うけど…。」
そう言って川口の方を見るツカサ。
その視線からタラコゴリラ…由紀男は、今度は川口に詰め寄る。
「ねぇ、ちょっと貸してくんない?」
「は、はい…!」
もうこうなったら川口は二つ返事で言いなりになるしかない。
ツカサが手にしていた川口のギターは、アッと言う間に由紀男に強奪されてしまったのだ…!
「俺も「Kickstart」弾けるぜ!
ちょっとやろーぜ?」
由紀男は意地の悪そうな笑みを浮かべて逃げそこなったシュウを見つめる。
「ハ、ハイ!」
シュウのような古い不良タイプは、たとえ面識がなくても、先輩という存在には弱い。
そんなシュウの顔にはハッキリと「逃げたい!」と書いてある。
(あーあ…捕まっちゃったか…)
ギターを奪われてしまったツカサだが、こうなってしまっては仕方がない。
あとは退散するのみだが、流石にシュウを置いては帰れない。
気まずいがシュウが解放されるまで待つしかない。
ツカサとシュウの焦りを知ってか知らぬか、由紀男はギターを弾き始めた。
ツカサもシュウもこの曲をちゃんと弾くのはほとんど今日初めてのようなもので、お互い適当でもよかったが、由紀男は完コピしていた。
由紀男はさっきの演奏で2人がちゃんとコピーしてないのをわかっていて、実力差を見せ付けるかのように満足気な顔をして弾いている。
一人で完コピオナニーショーだ。
(反則だろ、ちっちぇー奴だな…)
そう思ったツカサだが、川口たちにしてみれば、シュウもツカサも同じようなものかもしれない。
そう、一番の被害者は川口たち3人なのだ。
先輩の登場に川口たちは更に萎縮している。
まったく哀れだ。
しかし気まずい。
ツカサはひたすら気まずい空気の中、由紀男に嫌悪感を抱き、「タラコゴリラ野郎」と心の中で何度もつぶやいていた。
適当なところで曲が終わり、これ幸いとドラムから離れてシュウがツカサの元へかけよった。
引きつった笑いを浮かべている。
何とも言えない苦笑いで応えるツカサ。
「じゃーなー…。」
シュウが引きつった顔のまま、クールを装って川口たちに声をかけたが、視線の先は練習室の扉一直線だ。
(しょうがねーな…(苦笑))
「じゃー、ありがとうね!」
状況を見守っていたツカサも、川口たちに礼を言い、シュウの後を追うように練習室を後にした。
その後2人はすぐに帰宅の徒についたため、由紀男たちがどのくらい練習室を占領していたのか、川口たちが自分達の練習にありつけたのかなぞ、知る由もなかった…。
<つづく>
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