以前住んでいた所での出来事。
ある日私はバイクをいじっていた。
気がついたら通りすがりの一人のおじいさんが
近くでこちらの様子をうかがっている。
最初は無視しようと思ったがずっと見ているので
しばらくして
「気づいていますよ~?」
「どうかしましたか~?」
ってオーラを出すと
おじいさんは私に話しかけた。
「大きいバイクだね~。」
「何cc?」
「どこの?」
等々…。
聞けば昔は航空機の設計やらに関わっていたらしい。
だからエンジンとかには詳しいらしい。
実際詳しくて、コアな話をした。
今は引退して、毎日バス停まで散歩して
バスに乗って出かけてるっていうのが日課だそうだ。
70代ということで、正直見た目相応だったが、
「60代にしか見えませんよ!」
「そうやって体を動かしてるから元気なんですね!」
と言うと若干照れ笑いを浮かべてくれた。
それから数ヶ月経ったある日のこと。
同じ場所で私はバイクをいじっていた。
ふと気がつくと、またそのおじいさんが
あの時と同じように様子をうかがっている。
私は向こうもこっちのことを覚えていて見ているもんだと思っていた。
しかし以前と同じように、最初は見ているだけで
微妙な距離を保ったまま。
しょうがないのでまた
「気づいていますよ~?」
オーラを出すと
近づいてきて話かけてきた。
その展開といい、話の内容といい、数ヶ月前の時と寸分狂わない。
少し探りを入れてみたが、
どうやらこっちのことはまるで覚えてないようだ。
ただ単に忘れちゃっただけなのかなと最初は思ったけど
しばらく話していて一つの疑いが脳裏を過ぎった。
「痴呆だ…。」
そう思った瞬間、物凄く悲しくなった。
そしてその日のおじいさんは滞在時間も短く
急に態度が変わってどこかに行ってしまった。
その様子には以前にはなかった違和感があったことが否めない。
その後バス停に向かったのか、
本当に毎日散歩していたのかは定かではない…。
その後、そのおじいさんに逢う事は一度もなかった。
本当に痴呆だったのかどうかも定かではないし
私の思い過ごしの可能性もある。
いや、思い過ごしであってくれた方がいい。
なーに、急に思い出したのさ。
今も毎日元気に散歩してお出かけしていると信じよう。

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